発癌へのプロセス

 癌とは?
 まずは癌とは何か?ということから。細胞の塊には悪性と良性とがあり、癌は悪性腫瘍であり、悪性腫瘍とは通常の細胞の増殖はプログラムされており、必要がなくなれば自分から消えていきます。つまり寿命をもっているし、分裂できる回数も決まっている事が多いです。しかし、悪性腫瘍は増殖速度が速く、転移や他の組織に入り込んだり、方向性や形がでたらめであったり、通常細胞はシャーレ上で培養すると綺麗に一層で増殖しますが、悪性腫瘍は細胞の上に細胞が乗っかるような感じで増殖したりもできます。つまり、一層でなく山積みになることもできるのです。そして、悪性腫瘍には上皮性悪性腫瘍と非上皮性悪性腫瘍があり、非上皮性悪性腫瘍は肉腫と言われます。例えば血管内皮なら血管肉腫、骨ならば骨肉腫となり、上皮性悪性腫瘍を癌腫と言います。皮膚に出来れば皮膚癌となります。

 発癌へのプロセスは通常3段階に分けることができます。1.イニシエーション、2.プロモーション、3.プログレッションとなります。イニシエーションとは化学物質などが標的に細胞のDNAに変化を与える過程。プロモーションはイニシエーションされた細胞の増殖を左右するその後の様々な事象を含んだ過程。プログレッションとは悪性か、転移能などの遺伝的な変化を起こしながら癌が発達していく過程。と簡単に説明するとこんな感じです。

 
イニシエーション
 化学物質がDNAと反応してゲノムに突然変異が起きた細胞の事をイニシエーションされた細胞といいます。発癌物質の代謝、DNAの修復、細胞の増殖という少なくとも3つの細胞の機能が関わってきます。代謝では発癌物質の活性化、不活化など。DNA修飾は変異した塩基の修復やゲノムへの持ち込み。細胞増殖はゲノムに遺伝的変化をもたらします。イニシエーションは不可逆的に起きますが、全部の細胞が腫瘍となるわけではなく、アポトーシスという細胞の自殺によって排除されていきます。つまり、正常に細胞が機能していれば、イニシエーションされてしまった細胞の多くは、臨床的には癌にまで発達しなければDNAの変化は発見されないまま消えていくのである。

 
プロモーション
 化学発癌物質は多くは標的臓器のDNAと反応して共有結合でDNA付加生成物をつくって、遺伝子発現や遺伝子産物を修飾する。プロモーターは遺伝毒性のメカニズムを介さずに発癌を促進することができる。通常プロモーターはイニシエーションされた細胞の増殖に影響を与え、その結果前腫瘍細胞が集まって増殖したり、ポリープなど良性の細胞巣を作る。多くは退縮していくが、わずかの細胞がさらに突然変異を起こし悪性腫瘍へと進行する。しかし、発癌に積極的なプロモーションが必須というわけでなく、遺伝子損傷の蓄積だけによっても発癌することがある。プロモーターはイニシエーターを投与した後、ある一定の閾値以上投与してやれば、イニシエーター投与後4〜5カ月遅れても腫瘍ができる。しかし多くは、プロモーターだけでは発癌することはない。なぜなら、イニシエーターと異なり多くのプロモーターは求電子性の反応物を作らず、DNAと共有結合をしないのだ。そのためAmes testをはじめとする短期試験では突然変異を引き起こしたり、遺伝毒性を示すことがない。そのため、プロモーターと確定するのは大変な作業である。プロモーションは、プロモーターが除去されれば、進行していなければ可逆的な段階と考えられている。一般的にプロモーターは一時的に細胞分裂を増加させ、アポトーシスを減らした結果イニシエーションされた細胞を増殖させることが多い。

 
プログレッション
 プログレッションの過程で、腫瘍は増殖能、浸潤能、転移能などの性質を獲得する。プログレッションの特徴は核型の不安定を増している所である。これにより、癌遺伝子や癌抑制遺伝子の機能編かなどが起きて突然変異形質を獲得する。以上のようなイニシエーション、プロモーション、プログレッションというモデルは発癌の過程を理解するには便利であるが、実際遺伝子レベルで腫瘍の発育過程を調べるともっと多くのゲノムの変化が起こっている。