飲めば飲むほどお酒に強くなる?!

スペシャルサンクス:生物無機化学のT先生

 よく、最初飲めなかったんだけど、お酒飲むと段々強くなって来たよ〜って言う人いますよね?これって何でしょうか?生物には薬物が多すぎると耐性をつけたりして、その薬物に強くなる事があります。
 例えば、麻薬をやりすぎると、脳の麻薬を受容する部分が少なくなる事によって、確率的にその物質が受容される率が減りますから、快楽のスイッチが入らなくなったり、受容体が減ると言うことは、それだけ少ない量しか快楽スイッチが入らないということにもなります。
 また、細菌とかによく見られるタイプとして、抗生物質耐性を持った細菌は、プラスミドという遺伝子を利用して、薬物に対する酵素などを作ったりするものもいます。
 このような感じで生物はいろいろな薬物に対して耐性を持って自分の生命を守って生きています。ではお酒の場合はどうなのでしょうか?お酒の場合も同じように体にとっては異物ですので、体の中である変化が起こっています。これは薬物代謝をする酵素を多く作って解毒しているのですが、大きな落とし穴があるのです。では順に説明していきましょう。
 まず、よく聞く話がありますよね?欧米人に比べて日本人はお酒に弱いと言うこと。エタノールは2段階の反応により酢酸まで酸化されます。途中でアセトアルデヒドというちょっと強い毒物が生成されます。これが頭痛、発汗、血圧降下、などのアルデヒド症状(二日酔い症状)を起こします(同じアルデヒドの仲間のホルムアルデヒドも新築の家などで発生し、頭痛などを起こしますよね?)。このアセトアルデヒドがすぐに酢酸まで酸化されれば、悪酔いしないし、アセトアルデヒドから酢酸に酸化する速度が遅ければ、アルデヒドがたまり悪酔いすることになるのです。このアセトアルデヒドを分解する酵素、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)には、アルデヒドの血中濃度の低いうちから働くALDH−Uと、高濃度にならないと働かないALDH−Tがあり、欧米人は90%、日本人は半分の人が両方の酵素をもっていますが、日本人の残りの半分の人はALDH−Uが欠損しているため、欧米人に比べお酒に弱い人が多いのです。
 で、お酒が飲むうちに強くなっていくというのは、アセトアルデヒドの分解にシトクロームP450という薬物代謝酵素が関与してくるためなのです。P450は誘導酵素なのでアルコールの摂取量によって増えて、6倍くらいまでに増えるそうです。このP450がALDHと同じ働きをして、酢酸に分解するのでお酒に強くなるのです。しかし、このP450が増えると言うことは、このP450は肝臓の細胞にあるので、肝臓が大きくなると言うことです。つまり、肝肥大、肝硬変、肝臓癌になりやすくなります。これがアルコールが肝臓を悪くするという理由です。
 日本人はすぐに酔ってしまうため、アルコール中毒になりにくく、このP450が増えるため、アルコール中毒になる前に肝臓が壊れ、逆に欧米人はお酒に強いので、肝臓が壊れにくく、アルコール中毒になりやすいのもこのためです。
 ちなみに、アルコール中毒患者にはジスルフィラムという薬を投与します。この薬はALDHを阻害するため、アルコールを飲むとアセトアルデヒドが蓄積されるために気落ち悪くなるため、お酒を飲むのを控えるようになるというわけです。
 さらに、水はガバガバ飲めないのに、お酒は飲めてしまうのは、水は胃では殆ど吸収されず、腸で吸収されますが、アルコールが入ると胃がアルコールを吸収し、水がついでに一緒にトラップされてしまって、さらに腸でも吸収されるのでお酒は水より沢山飲めるのです。だから、飲んだらそれら多く吸収した水と、酢酸を分解したときにでる水が大量の尿として排泄され、水分が不足してくるので、酔いがさめたとき喉がカラカラになっているのです。
 お酒の飲み過ぎには気を付けましょう!そして、強くなったと自慢するのは結構ですが、それだけ薬物代謝酵素P450が増え肝臓に負担がかかっているのだと言うことを忘れないようにしましょう。