LSDな話。

 LSDの話です。まずは最初に麦角(バッカク)の話から。バッカク菌(Claviceps purpurea Tulasne)がライ麦の子房に寄生して生じる菌核のことで、医薬品機嫌としてはライ麦に寄生したものを使うが、大麦、小麦、スズなどに寄生する子のう菌の一種です。黒い色をしており、角っぽく見えることから麦角です。成分はエルゴメトリン(構造式立体)を含みます。これは子宮収縮作用があるのでお産の時に使います。もう一つの成分はエルゴタミン(構造式立体)でお産の時にも使いますが、主に偏頭痛で使ったりする薬です。麦につく菌なので、10世紀頃のフランスでバッカクのついた麦を粉にしてパンを食べていたため、5万人ぐらい死に「聖火病」と言っておそれられていました。死に方には2パターンくらいあり、少量のバッカクを毎日少しずつ食べるので1〜2ヶ月経ってから手足が腐って死ぬ場合と、LSD服用時のような症状で死にます。これは産地によって異なります。医薬品として用いる場合は強力なので少量を用います。
 で、本題です。このバッカクからLSDという医薬品に使わない麻薬を作ることが出来ます。基本的合成経路はバッカク成分を加水分解してリゼルギン酸(リセルグ酸とも言う。構造式立体)さらにジエチルアミド化するとLSD(構造式立体)になります。1943年スイスの製薬会社サンドの研究所にいたアルベルト=ホフマン博士は、このバッカクから作った「LSD25」を微量(約0.25mg)嘗めたときに、幻覚体験をしたそうです。それは周囲が彩色されたマンガのように見えたり、物が動揺して見えたり、水面に映った画像のように見えたそうです。LSD25のLはリゼルギン酸、Sはサンド製薬会社、Dはデリシット(商品名)で、25は合成された1938年5月2日という意味だとか、25番目の製造物だった、25回目の試みで成功したといろいろな噂がありますが、ホフマンがLSDにカンする著作を残しておりLSDをMy Problem Childと呼び。「1938年に私は一連のリゼルギン酸誘導体の205番目に製造したリゼルギン酸ジエチルアミドを研究室での便宜上LSD25と省略した」と書いているそうです。このLSDは1gあたりで6000〜9000回効力を示し、最も強力なアンフェタミン系幻覚剤DOM(STP)では1gあたり200回分というのを見れば解るように強烈な効力を持っています。わずか0.01mgでも幻覚作用があるそうです。「歴史上最強の幻覚剤」と言われるのも頷けます。
 1950年にLSDがアメリカへ輸入され、ハーバード大学心理学教室のティモシー=レアリーは、LSDがアルコール中毒の治療に効果があると言って(すごい事いうヒトだな・・・汗)学生にも服用させ、学生間に愛用者が増えた。レアリーは大学を辞めてLSDを「意識開眼の妙薬」として魂の救済とか訳の解らない事を言い、教祖となってLSD服用による「トリップ」をとなえるようになった。これをきっかけにアメリカで若者の間にLSDの服用が流行した。これは大きな社会問題になったので1966年にその使用が規制。日本では1970年に麻薬に指定され厳重に取り締まられている。
 バッカクの成分もLSDも神経ホルモンである「セロトニン」の複雑な誘導体でアミンの神経ホルモンの作用を左右して幻覚を生じている。セロトニンを誘導するので、もし、もう少し世に出てくるのが遅ければ、LSDは鬱病患者の治療薬となっていたかもしれない。麻薬とは恐ろしいものである。

 ホフマン博士は「リゼルギン酸誘導体の205番目に製造した」と言っている。つまり、いくつかの誘導体を合成していたと言うことです。以下にその誘導体を紹介します。

インドール基(構造式)置換体

1位のN 2位のC サンド製薬会社コードネーム
-H -H LSD-25
-COCH3 -H ALD-52
-CH3 -H MLD-41
-H -B BOL-148
-CH3 -Br MBL-61
-CH3 -I MIL

窒素アミドアルキル基置換体

インドール中のアミドアルキル 置換窒素アミドアルキル1 同左2 コードネーム
-H -CH2CH3 -CH2CH3 LSD-25
-H -H -H LA-111
-H -CH2CH3 -H LAE-32
-H -CH(CH3)CH2OH -H エルゴノビン
-H -CH(CH3)CH2CH2H -H メテルギン
-H -CH3 -CH3 DAM-57
-H -(CH2)2CH3 -CH3 LAMP
-H -CH2CH=CH2 -CH2CH=CH2 DAL
-CH3 -CH2CH3 -H MLA-74
-CH3 -CH(CH2CH3)CH2OH -H UML-491
-COCH3 -COCH3 -CH2CH3 APA-10

 とまぁ代表的なものを書いたのですが・・・実際はもっともっと大量にあり、アミド基の所が効果と大きく関係していたようです。ホフマン博士の努力はすごいですなぁ・・・蛇足でALD-52についてはオレンジサンシャインと称して売られていた薬だと推測され、実はLSD-25ではなかったのか?と疑われた。という裁判が当時ありました。逮捕され起訴された2人の被告は「配ったのはALD-52でLSD-25ではない」と言いましたが、検察側はALD-52は簡単に加水分解されLSD-25だと反論、さらに、当時知られていた合成法では非合法であるLSD-25を通らなければALD-52は作れない事を示し有罪となった。実際にはALD-52の反応のしやすさを検証したのは誰か解っていないという謎の判決。

 で、このLSDというものは溶かした溶液を紙に染みこませたり、錠剤にして服用するようです。紙のヤツはミシン目が入っており綺麗に切れるものから、線だけしか入ってない粗悪なものまで、このミシン目に沿って切って服用します。紙には色々なデザインが施されている事が多く、ドラゴンの絵やら、スーパーマン、太陽、ホフマンの絵、さらには含有マイクログラム数やLSD-25の25という数字がプリントされているものもあります。絵はミシン目で切れる1ピースごとに絵が描かれている物や、5×5ピースなど全体で一つの絵になっているものもあります。絵は綺麗ですが違法ですので注意です。