発癌物質

 発癌物質には大きくわけて2種類あり(ここではDNA反応性の物質を言っている。他にもホルモン、過酸化物などもある)、1種類は直接作用する発癌物質。これはジメチルカルバミクロライド、β−プロピアラクトン、ニトロジェンマスタードなどのようなものであり、元々不安定物質であったり、外でほおっておくと不安定な物質になり、反応性が高いものたちである。例えば、ニトロジェンマスタードはエチル基の塩素が取れ、窒素とくっつきニトロカチオンを形成する。これは強力なアルキル化剤となりDNAと結合し癌を引き起こす。

 もう一種類は代謝により活性化され発癌物質となるものたち。ベンゾピレン、β−ナフチラミン、ジメチルニトロサミン、塩化ビニル、アフラトキシンB1などである。これらは生物が異物を排出するため物質を代謝し、最初とは異なる形にし排出しやすいように水溶性にするのだが、その過程で反応性の高い物質ができてしまい、発癌にいたる。β−ナフチラミンの例を下図に示した。β−ナフチラミンは薬物代謝酵素シトクロームP−450のCYP1A2によりヒドロキシルアミンに代謝される。さらにトランスフェラーゼによって硫酸抱合(スルホニルオキシエステル)、アセチル抱合(アセトキシエステル)、グルクロン酸抱合(グルクロノシルオキシエステル)のいずれかの抱合反応を受ける。これらはアリールニトレニウムイオンとなりアリールアミン化剤としてDNAと反応する。

 これらアルキル化剤、アラルキル化剤(芳香族エポキシド)、アリールアミン化剤はDNAの塩基の部分と共役結合する。まさに有機化学の反応と同じように、それぞれの塩基に求電子反応していく(塩基から見ると求核反応)。

カルボカチオンの置換反応の例

チミンの窒素とアルキル化剤の反応

 ここでは例としてチミンの窒素に反応するのをあげましたが、もちろんチミンのカルボニルの酸素との反応もあるし、シトシンやグアニン、アデニンとも反応しますし、アルキル化剤だけでなく他のアリールアミン化剤やアラルキル化剤も反応もします。置換部位としてはチミンは3つの場所全てにアルキル化剤、アデニンは1番、3番、7番の窒素にアルキル化剤、アリールアミン化剤は6番の炭素に結合している窒素、8番炭素に、アラルキル化剤は6番の炭素に結合している窒素などです。これらの反応部位の違いはイオン強度の違いや立体障害などによるものです。このように付加生成物が生じてしまうとDNA複製が不確実となります。まさに前回話した紫外線による癌化と同じで、紫外線の場合は紫外線のエネルギーによって(ものを反応させるにはきっかけが必要)隣り合ったチミンが結合を作ってしまいます(T−Tdimer)。これらは修復機能によって修復され正常細胞となるか、無効なミスマッチ修復により細胞死をとげるか、ミスマッチをもったままの細胞として生きてイニシエーションされた細胞との3パターンになります。